地域情報DX化アプリで日本を支える、DXカンパニー

株式会社夢現舎

代表取締役 飯田 公司

インタビューに答えていただいた代表取締役の飯田公司氏

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社夢現舎は、「日本文化をICT/IoTで支援する」をミッションに、地域活性化に取り組む企業です。「mD-Signage(モバイルデジタルサイネージ)」という、観光・商業情報を提供するプラットフォームを開発し、地域情報のDX化に取り組んでいます。代表取締役の飯田公司氏に起業の経緯や事業内容について詳しく話を伺いました。

3年が24年に。技術者としてキャリアを積む

起業前のキャリアについて教えてください。

飯田:もともとソフトウェアの会社に24年間お世話になっていて、そこから独立して起業し、今年で17年目になります。ソフトウェアの会社に勤めた経緯は、実家が床屋で、サラリーマンの働き方を全然知らなかったんです。一度は経験してみたくて、「3年間だけ働かせてください」と社長に伝えところ、「自分もそうやって起業したから、いいよ」と受け入れてくれました。それから実際に3年働いたのですが、いやもう……普通に働くだけで大変で、とてもじゃないけれど起業なんて簡単じゃないという現実がわかりました(笑)。結局、24年間その会社で働くことになりました。最初のころは制御系ソフトウェアの開発に携わっていて、特に工業用のリアルタイムOSや、特定のハードウェア上で動く組込系ソフトウェアの開発をしていました。その後、後半は新規事業の立ち上げを任されて、自社商品や選挙調査システムの事業にも関わるようになりました。

起業のきっかけはシリコンバレーでの気づき

起業のきっかけはアメリカでの経験があったからと伺っています。

飯田:2001年9月11日にアメリカへ渡り、シリコンバレーのクパチーノ、ちょうどアップル本社の近くに事務所を開設し、GMとして赴任しました。まさに「9.11」の当日です。現地では、元・伊藤忠アメリカの社長だった方がボスで、その下でシリコンバレーを軸にしたグローバルビジネスを体験することができました。その中で痛感したのが、日本人がソフトウェアの分野で勝負をするのは、かなり厳しいということ。やはり母国語が違うと、最新技術のキャッチアップに時間がかかるし、世界レベルで戦うには相当なハードルがあるなと感じました。では、「日本人としてどう戦っていくべきか?」。そう考えたときに、世界のハイレベルなビジネスパーソンたちは、日本文化に対して非常に高い関心や尊敬の念を持っていることが分かったんです。「日本文化の価値は非常に高い」、そして「日本人であること自体が強みになる」と気づきました。この経験が、その後の夢現舎の設立につながっています。現在、弊社では「日本文化をICT/IoTで支援する」をミッションに掲げて活動していますが、その原点には、シリコンバレーでのこの気づきがありました。

観光ガイドや地域活性化に役立つアプリの開発

事業内容について紹介してください。

飯田:弊社では、地域情報のDX化を進めるアプリを開発しています。その中でも主力なのが、「mD-Signage(モバイルデジタルサイネージ)」というアプリです。簡単に言うと、スマートフォンをデジタルサイネージ化して、観光客や地域住民に向けて、必要な情報をその場で提供できる仕組みです。具体的には、GPSやBeacon(※1)、二次元コードを活用して、その場所とインターネット上のコンテンツを結びつけることができます。たとえば、八王子市を例にすると、市のホームページにはさまざまな情報が載っていて、YouTubeやSNSの発信もあります。しかし、外国人観光客が「どこに何の情報があるのかわからない」という状況になりがちですよね。そういった情報を整理して、わかりやすくアプリ化するというのがmD-Signageのコンセプトです。さらに、ただ情報をまとめるだけではなく、「その場所に行くと、必要な情報が自動的に出てくる」という仕組みになっています。たとえば、あるカフェの近くを通ると、「このお店のホームページはこちら」とか「本日のおすすめメニュー」といった情報がポップアップでスマホに表示されます。
※1.BeaconはBluetoothを利用して近距離のデバイスと通信し、位置情報や通知を送信する無線発信機。

導入実績としては、大きく2つの分野があります。一つは観光ガイドアプリとして、自治体や博物館などのクライアントに導入されています。特に音声ガイドとして利用されることが多く、東京タワー、増上寺、浅草エリア、高尾山、御岳山など、海外旅行客が多い観光地での導入実績があります。もう一つが、地域活性化分野です。商業と観光の融合を目指し、地域住民・通勤・通学者、そして観光客向けの地域ガイドとして使われています。地元の情報と観光情報を一体化させることで、地域の魅力を発信しながら、街を歩く人にリアルタイムで情報を届けられる仕組みです。このように、観光や地域活性化に役立つデジタルインフラをつくるというのが、弊社の事業の特徴です。

一度のダウンロードでどこでも使えるというユーザーメリット

mD-Signageの開発で工夫した点はどこでしょうか?

飯田:アプリを提供する側にとって、一番の課題は「ユーザーにインストールしてもらうこと」と「その後すぐに削除されないこと」です。一方で、ユーザーからすると、観光地ごとに別のアプリをインストールするのは手間ですよね。そこで、mD-Signageのプラットフォームを活用することで、一つのアプリを入れれば、他の観光地のアプリを追加でインストールする必要がなくなる仕組みを作りました。たとえば、東京タワーでこのアプリをインストールした人が、そのまま高尾山へ行くと、アプリが自動的に高尾山の案内モードに切り替わるようになっています。この技術は特許を取得しており、mD-Signageのサービス展開の大きな強みとなっています。提供側にもユーザーにも負担の少ない設計にすることで、より多くの人に使ってもらえる仕組みを実現しました。

三鷹市の商店街と連携し市民向けアプリを開発

地域社会と連携した取り組みについて実績をご紹介ください。

飯田:三鷹商工会の前会長が「小さな個店をつなぐことで、大型ショッピングセンターのような規模のメリットを生み出し、地域商業を発展させる」というビジョンを掲げており、それが私たちの目指す地域活性化の方向性と一致していました。そこで、東京都の助成金を活用し、弊社のアプリを導入して商店街のアプリ『ミィね!mitaka』を開発しました。その後、さらにもう一歩進めて、先ほど述べた「商業と観光の融合」に取り組みました。それまでは三鷹のジブリ美術館を訪れた観光客が、美術館を見た後、食事もせずにそのまま帰ってしまうというような課題があったんですね。つまり、観光と商業がうまく結びついていない状態になっていたのです。そこで、弊社では「観光と商業の情報を意図的に融合させて提供する」というアプローチを採用しました。観光情報だけを表示するのではなく、「街にはこんなお店やサービスがあるんだ」と自然に認知してもらえる仕組みを設計。さらに、クーポンを活用して観光客を地域の店舗に送客する仕組みも導入しました。このプロジェクトは、みたか都市観光協会、三鷹ネットワーク大学推進機構、教育委員会の協力を得ながら、市民向けのアプリとして成長を遂げています。こうした取組を通じて、観光と商業をつなげ、街全体を活性化する。それが、弊社のモデルとなっています。

災害時でも使えるフェーズフリーのアプリ開発に取り組む

今後、新たに取り組もうとしている事業はありますか?

飯田:フェーズフリー(Phase Free)という概念があるのですが、これをソフトウェアの分野で形にしていきたいと思っています。フェーズフリーとは、日常と非常時の境目をなくし、普段使っているものが災害時にも役立つようにするという考え方です。具体的には、普段は観光で使っているアプリが、有事の際には減災アプリに自動で切り替わる仕組みを作ろうと考えています。たとえば、南海トラフ地震が起きたとします。江ノ島電鉄は全線の65%が津波の被害を受けるリスクがあると言われており、場所によっては、最大35mの津波がくる可能性もあるんです。しかし、駅には「ここに逃げろ」という案内が、小さな日本語の標識で書いてあるだけです。これだと、外国人観光客はどこに逃げればいいのか全然わからない。そこで、観光で使っているアプリが、災害が発生した瞬間に減災モードに切り替わり、「このエリアの人はこっちに逃げて」とリアルタイムで案内できる仕組みを作れないかと考えています。特に、災害時は初動が重要なのです。地震が起きると、駅のデジタルサイネージや電光掲示板は電源が落ちて使えなくなることが多い。しかし、スマートフォンならまだバッテリーが残っているので、これを活用して最初の避難行動をサポートできる。今まさに、そのような仕組みを作れるかどうか、模索しているところです。

町会をデジタル化し地域の文化を守りたい

地域社会とはどのような関わりがありますか?

飯田:地域のために、本業とは別で町会のデジタル化をやっているのですが、正直、これはお金にならないんですよね(笑)。しかし、そういう「ビジネスにならないから放置されてしまっている市場」は意外と多く、だからこそ、しっかりとお金になる形にして、持続可能な仕組みとして救い上げていきたいなと。現在、町会や自治体はどんどん崩壊しつつあり、文化の継承すら難しくなっています。しかし、それをなんとか作り直したいと思い、南大沢で実験的に取り組んでいるところです。たとえば最近、弊社のアプリを使って町会が神社仏閣を巡るスタンプラリーを開催しました。こうした仕組みを作ることで、地域の文化を次の世代につなげるきっかけになればいいですね。また、こうした取組がモデルとして成り立てば、他の地域にも広げていきたいです。多摩地域は、本当にいいものがたくさんありますし、歴史も深い。知れば知るほど、この地域に愛着が湧いてくるんですよね。

会社情報

会社名 株式会社夢現舎
設立 2008年7月8日
本社所在地 東京都八王子市南大沢1-20-16
ウェブサイト https://mugensha.jp/
事業内容 アプリ開発