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「農業=ワクワク」。青森と多摩から農業の魅力を発信する、若手農業経営者

株式会社 CREATE AGRI

代表取締役社長 高橋 幹太

インタビューに答えていただいた高橋幹太氏

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 「同じ日に、同じ種を、同じタイミングで植えても、芽の出方や育ち方はすべて違う」――高校時代に先生からかけられたこの言葉が、農業の奥深さとおもしろさに気づくきっかけだったと語る高橋幹太氏。都立農芸高校で農業と出会い、農業大学校や大手農業法人での実務経験を経て、2023年10月に農業法人「株式会社 CREATE AGRI」を設立。本社は西東京市に構えるものの、現在は青森県三戸町を第二の拠点として、さつまいもの産地化に取り組んでいる高橋氏に、現在の事業について詳しくお話を伺いました。

農地の確保に大苦戦

独立のきっかけは?

高橋:もともと「農業界に何か貢献したい」という思いをずっと抱いており、いつか自分自身でも何かアクションを起こしたいと考えていました。日本の農業には多くの課題がありますが、なかでも私が特に深刻だと感じていたのは、新規就農者がなかなか定着せず、早い段階で離農してしまうという現実です。そんな中、勤めていた会社で、自分で会社を立ち上げている方と出会ったんです。その人と「いつか一緒に何かできたらいいね」という話になったことが、独立を意識するきっかけになりました。そして、4年半勤めたあと、同じ会社で働いていたメンバーと共に「株式会社 CREATE AGRI」を立ち上げました。

創業後にまず苦労したのは、畑探しです。実際に立ち上げてから半年ほどは、土地を借りることができず、何度も断られ続けました。例えば、最初は茨城県で土地を借りようとしたのですが、役場からは「ぜひ活用してほしい」と前向きな姿勢を見せてもらっていたものの、直前になって地権者の方から「やっぱり貸せません」と断られてしまい……。おそらく、知らない人に土地を貸すことに不安があったのだと思います。その後もなかなか候補地が決まらず、「どうしたものか」と悩んでいたとき、偶然出会ったのが、地方の課題と都市部の企業をつなぐマッチング支援を行っている会社でした。相談してみたところ、「ぜひ紹介したい自治体がある」とご提案いただき、ご縁がつながったのが現在活動している青森県の三戸町です。遊休農地の活用を望む三戸町と、農地を探していた私たちのニーズが一致し、農地をお借りすることができました。

葉タバコからさつまいもへ

三戸町で取り組んでいる事業について教えてください。

高橋:三戸町では、近年の高齢化や気候変動の影響を受け、新たな作物への転換を模索していました。そこで三戸町と連携し、単なる遊休農地の活用にとどまらず、「さつまいもの産地化」に取り組んでいます。町とは連携協定を結んでいて、役場の方々の協力のもと、地域の農家さんに苗を配布し、実際に植えてもらうという試みを進めています。昨年は試験的に小規模で始めたのですが、今年から本格的に栽培面積を広げています。

なぜさつまいもなのかというと、三戸町はもともと葉タバコの一大産地だったのですが、近年は高齢化の影響で生産者が激減しています。葉タバコは夏場の作業が中心で、かつ手作業が多く、どうしても高齢者には負担が大きい。町としても機械化が進めにくい葉タバコに代わる作物を模索していたところ、私たちとの出会いがあり、「さつまいもはどうですか?」という提案が出発点となりました。

さらに、さつまいもは全国的にも栽培環境が変わってきています。以前は暑い地域、たとえば九州などが主な産地でしたが、近年の温暖化の影響で品質のばらつきやB品率の上昇が課題になっています。そのため、大手の農業法人が北海道に農地を求めるケースも増えており、以前は栽培が難しかった福島以北でも、さつまいもが育つ環境が整ってきたんです。青森での取り組みは、まさにその流れの中にあります。

さつまいもに魅力を感じたのはいつからですか?

高橋:農業大学校時代からさつまいもはずっと栽培していたので、もともと好きな作物でした。もちろん味も好きですが、何より“捨てるところがない”という点に魅力を感じていました。形が悪くて出荷できないものも家畜の飼料になりますし、葉っぱも同様に活用できる。まるごと使い切れる作物なんです。それに加えて、比較的栽培がしやすいというのも、さつまいもの良さですね。

連携のメリットを生かして地域に根差す

連携協定のメリットをどのように感じていますか?

高橋:やはり、地域との調整を役場の方が担ってくれるのは非常に助かります。もちろん、私たち自身も農家さんにご挨拶をして関係を築いていく必要がありますが、その前段階で「こういう人たちが来て、こういうことをやろうとしている」という説明をあらかじめ役場からしてもらえると、農地を借りるにしても、産地化を進めるにしても、物事がスムーズに進むんです。

三戸町ではさつまいも栽培の前例がなく、データも実績もゼロ。農家の皆さんにとっては、「いつ植えるの?」「肥料は?」「収穫はいつ?」と、当然ながら不安が大きい。そこで、まずは私たちがしっかり作って、データを取り、それをベースに普及させていこうという形でスタートしました。

現在は、さつまいもを中心に、ケールと白ナスも栽培しています。ケールは葉タバコと栽培方法が似ていて、作型や機械もほとんど共通しているため、既存の農家さんが取り組みやすいという利点があります。白ナスについては、単純に私自身が感動するほどおいしいと感じたのが理由です(笑)。その魅力をもっと多くの人に届けたいと思って栽培を始めました。

テクノロジーの力で農業をアップデート

農業へのテクノロジー導入に積極的に取り組まれているとのことですが、具体的にはどのようなことを行っているのですか?

高橋:農作業の中で、まず畝(うね)を作る工程があります。畑に山のような畝を作ることで、作物を効率的に育てるための基礎ができるのですが、これまでは人の目でまっすぐ走って作っていました。でも、実際にはどうしても曲がってしまうんですよね。曲がると畑の形が歪んでしまい、植えられる量が減ったり、その後の管理が難しくなったりします。そこで導入したのが、自動運転による畝立て。GPSを活用して、トラクターが自動でまっすぐ走ってくれる仕組みです。作業者はただ座って見ているだけでよく、誰でも正確な作業ができるようになります。

また、今後はAIの導入にも力を入れていきたいと考えています。特に事務作業など、現場以外の間接業務を効率化したいと思っていて。正直、日中ずっと農作業をしていると、帰宅後にはもうクタクタで……。体力的にきつい中で、経営に関わる事務処理までこなすのはなかなか大変なんです。たとえば、農家さんの多くは今でも「この日にどの農薬を使った」などの記録をノートに手書きで残している方もまだいます。そういった記録も、すべて音声入力でデータ化し、自動でまとめられるような仕組み等、農作業以外の事務作業を、AIに詳しい企業と一緒に開発しようと取り組んでいます。経営改善のためには、データの蓄積と活用が欠かせません。でも農業界では、記録すらつけない方も多く、感覚的にやっているケースがほとんどです。だからこそ、テクノロジーの力を使ってアップデートしていきたいと思っています。

農業の“リアル”を伝えて仲間を増やす

日本の農業界では、若い世代の担い手不足が深刻な課題となっていますが、それを解決するにはどうすればよいとお考えですか?

高橋:「農業=ワクワク」――これは私たちのビジョンにも掲げている言葉です。若い人たちが前向きに農業の世界に入ってこられるような産業にしていきたい、そんな思いからこの言葉を掲げています。正直なところ、今の農業界はまだまだ課題が多いです。給与水準や待遇は決して高くなく、週に2日休める環境ですら珍しいのが現状です。これでは若い世代が「働きたい」と思える職場にならない。だからこそ、テクノロジーを活用してもっと効率化し、働きやすい環境を整えていく必要があると思っています。機械化やデジタル化を進めていくことが、農業界が生き残るための“勝ち筋”だと感じています。

また、それと同時に「農業を知ってもらう」ことも重要だと考えています。その一環として、仲間と一緒にFM西東京で『ベジチャン!』という農業トーク番組を放送しています。農業に興味を持つ人を増やしたい、現場のリアルをもっと身近に感じてもらいたいという思いから始めました。実際、農業の実態を知らずに飛び込んでくる人もいますので。

イメージだけで入ってくる?

高橋:はい、実際にいますね。「農ライフ」や「田舎でのんびり」というイメージだけで新規就農する方もいて、でも現実とのギャップに直面して、半年も持たずに辞めてしまうケースも少なくありません。そういったミスマッチを防ぐためにも、「農業の見える化」が必要だと思っています。農業って、まだまだ閉鎖的な部分がある業界なんですよね。だからこそ、もっと積極的に発信していくべきだと感じています。いいことばかりを取り上げるのではなく、苦労や課題も含めて、リアルな農業の姿を伝えていくことが大切です。そうした情報発信も含めて、農業をもっと“ワクワクする世界”に変えていきたいと思っています。

就農者や仲間を増やすために実際に取り組んでいることは何ですか?

高橋:現在、三戸町の役場と連携し、「地域おこし協力隊」を受け入れて、当社で農業研修を実施しています。目的は、まず農業の現場を知ってもらい、最終的には新規就農につなげること。これは町としても重要な取り組みと位置づけられています。協力隊として着任された方には、座学を含めた農業の基礎から学んでいただきます。任期は3年間で、「3年後には独立を目指す」という方針のもと、段階的にサポートを行っています。協力隊の方々には当社の農作業にも参加してもらっており、現場にとっても大きな助けになっています。この取り組みは好評のようで、応募も多く寄せられています。行政と民間が連携し、次世代の担い手を育てる仕組みとして、着実に機能し始めていると実感しています。

他にも若手農家のグループ「COMPASSBOX」を結成して、都内(主に吉祥寺)でマルシェ等を開催しています。若手農家が実際に育てた野菜を都内の消費者に直接販売し届ける事でオフラインでの発信も出来たらと考えています。マルシェ開催場所随時探しているので、いい所あればぜひ教えてください(笑)

東京の農業に感じる可能性

西東京市に本社を構えているのはなぜですか?

高橋:実家がすぐ近くにあって、もともと地元で何かしたいという思いがあったので、自然とこの場所に本社を構えました。まだ農地は借りられていませんが、東京の農業には、実はとても面白い可能性があると思っていて。こんなにも都市圏に近くて、車で30分ほど走れば畑が広がっている――そんな環境は、世界的に見てもかなり珍しいんですよね。だからこそ、東京で農業をやる意義は大きいと感じています。

個人的には、特に「食育」に力を入れていきたいと思っています。大人だけでなく、子どもたちにも農業を知ってもらいたい。最近は貸し農園なども増えていますが、もっと本格的に“農業体験”ができるような場を作れたら面白いです。また、東京は多くの企業が集まる場所でもあるので、農業と他の産業とのコラボレーションや実証実験も、さまざまに展開できるのではと感じています。最近、特に注目しているのが「アグリスポーツ」です。農作業は体を使うので、ある意味“スポーツ”とも言えます。太陽の下で体を動かし、心身ともにリフレッシュできる。そのうえで、自分で育てた作物を食べる――そんな循環がとても健康的で、体験としても魅力的だと思うんです。「農業って意外とできるんだ」「想像以上に大変だな」と、実際にやってみることで気づくことも多い。東京は面積が限られているからこそ、こうした小規模で濃い体験を提供できる場所として、可能性を感じています。

まずは今の拠点である青森県で「さつまいもの産地化」をしっかりと実現し、今後は、東京や全国に拠点を増やしていきたいですね。現在は、5年で5拠点を目標に、各地での展開を進めているところです。最終的には、私たちの取り組みを通じて、「農業をやってみたい」と思ってくれる人が一人でも多く増えてくれたら、本当にうれしいですね。

会社情報

会社名 株式会社 CREATE AGRI
設立 2023年10月30日
本社所在地 東京都西東京市
ウェブサイト https://www.createagri-corp.com/
事業内容 農業生産事業/農業環境保全事業/加工品販売事業/マルシェ事業