Please note that our machine translation system does not guarantee 100% accuracy. The following limitations may apply:

父から娘へ、受け継がれるモノづくりの精神

株式会社デイテク

代表取締役社長 小林 俊夫 ・ 取締役 小林 真澄

インタビューに答えていただいた代表取締役社長の小林俊夫氏(右)と取締役の小林真澄氏(左)

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社デイテクは、八王子を拠点にプラスチック部品の成形を手がけるモノづくり企業です。早くから小ロット成形に取り組み、その豊富な経験を生かして研究・開発部門のニーズにスピーディーに応えることを強みとしています。現在は、社長の小林俊夫さんから娘の真澄さんへと事業承継を進めている最中でもあります。今回は、そのお二人に会社の事業内容についてお話を伺いました。

脱下請けの精神で設備に投資

創業の経緯について教えてください。

小林俊夫:私が工業高校3年のときに父が亡くなり、そのお葬式に来ていた方から「製造業の仕事をやってみないか」と声をかけられたのが、この世界に入るきっかけでした。当時はとにかく仕事があふれていて、新幹線の部品や自動車のラッパの旋盤加工、ラジエーターのプレス加工品など、さまざまなものを手がけていました。八王子には大手ミシンメーカーの工場があり、月に最大6万台ものミシンを生産していて、私たちもその仕事を請け負っていたんです。ところがある日、突然「台湾に工場を移す」と告げられて。日本のモノづくりが、大量生産から多品種少量生産へと大きく転換していく中で、私たちも時代の変化に対応する必要がありました。そこで、一台一台汎用機を導入しながら、自分たちなりのやり方でモノづくりを続けていったんです。やがて切削加工だけでは追いつかなくなり、より安価で簡単にできる「簡易金型」の分野に将来性を感じ、そこへと舵を切っていきました。

簡易金型で“少量・早く・安く・高品質”を実現

改めて、現在の事業内容をご紹介ください。

小林真澄:産業機器メーカーの技術開発・研究部門を主な対象に、3次元CAD・CAMを活用した金属部品や汎用樹脂・機能樹脂などの設計から試作、射出成形までを一貫してサポートしています。なかでも、汎用樹脂・機能樹脂による精密部品の成形を得意としており、試作金型の長年の製作経験を生かし、顧客のニーズに即した最適な提案を行っています。

そのなかでも御社の強みは?

小林俊夫:私たちの強みは、簡易金型を用いて、お客様に必要な分を安価かつタイムリーに提供できることです。「この形状をできるだけ早く作ってほしい」というご要望に対しては、日本でもトップクラスの競争力があると自負しています。少量からでも迅速に対応できる点が評価されており、従来の金型製作の手法を見直し、「もっと早く」という姿勢で追求してきました。

従来の金型では、大きなセットを組んで左右の金型をきっちり合わせるのが一般的でした。その際には「ブッシュ」という部品を使用し、精度を確保するのが常識だったんです。でも私は「本当にそこまで複雑な仕組みは必要だろうか?」と考えました。思い切ってブッシュを使わない構造に変えてみたんです。精度が落ちるのでは、と思われるかもしれませんが、工作機械そのものが持つ「X軸・Y軸の位置精度」をうまく生かせば、従来のように金型を外したり付け直したりしなくても、一度の固定(ワンチャック)で全て加工できる。そうすれば、機械の持つ本来の精度がそのまま金型に反映されるんです。結果として、余計な部品や工程を省けるので「安く、早く」仕上げる仕組みを作り出すことができました。

アイデア商品『のぶおくん』が大ヒット

受託製造だけでなく、自社開発したドアノブ用補助グリップ『のぶおくん』がヒットしたそうですね。どのような経緯で誕生したのでしょうか。

小林俊夫:きっかけは、妻が長年リウマチを患っていて、手がうまく動かせないことでした。ちょうどうちのドアが丸ノブで、開け閉めが難しいというので、「それなら自分で作ってみよう」と考えたのが始まりです。製造はできたものの、販売についてはまったく知識がなかったので、とにかく東急ハンズに売り込みに行ってみたんです。ただ、どのデパートもそうですが「棚割り」というのがあって、その棚の管理権を商社が握っていることが多く、個人や一品物が入り込めるスペースはほんのわずか。それに東急ハンズは各店舗が自主独立で運営されているため、新宿店なら新宿店、池袋店なら池袋店と、それぞれ個別に交渉しなければなりませんでした。製品の物性や安全性を証明する資料の準備も必要で、ハンズに商品を置いてもらうのは本当に大変でした。

今でもよく覚えているのは、最初に池袋店に行ったときのことです。事前にアポイントを取っていたので、てっきり応接室のような場所に通されると思っていたのですが、「商談は非常階段でお願いします」と言われて驚きました。実はハンズでは、ほとんどの商談が非常階段で行われていたんです。店内はすべて販売スペースなので、打ち合わせの場所がないんですね。ただ、ハンズのバイヤーは本当に目が利くんです。この製品は今までにあったかどうか、売れるかどうかを一瞬で見極める。『のぶおくん』を見せたときも、「これはいいね」と言ってくれて、いくつもの店舗で取り扱ってもらえることになりました。結果的に10万個以上売れて、今でも東急ハンズから注文書や支払い通知書がちゃんと届いています。だいぶ減りはしましたが、長く取り扱っていただけていて本当にありがたいです。

父から娘へ、事業を継承

真澄さんの入社の経緯を教えてください。

小林真澄:もともと動物のしつけを学ぶ専門学校に通っており、卒業後はペットと一緒に泊まれるホテルに就職しました。3年ほどたったとき、母から「ちょっと手伝ってくれないか」と声をかけられ、一度実家に戻ってみようと思ったのが入社のきっかけです。今はもう、“何でも屋”のような感じで動いています。お客様対応の窓口もやりますし、現場にも出ますし、とにかく全部やっている状態ですね。ちょうど今、事業承継の準備も進めていて、社長にサポートしていただきながら、自立してやっていけるように取り組んでいるところです。入社当初は、まさか自分が後を継ぐなんて考えてもいませんでした。でも、こういう機会はなかなか巡ってこないものだと思うんです。だからこそ、やれるところまで頑張ってみたいと思っています。

事業を継承するにあたり、娘さんに伝えていることはありますか。

小林俊夫:うまく言葉にできないことも多くて、正直、じっくり対話する時間もそんなに持てていないのですが……。でも、人間にとって一番大事なのは、やっぱり「思いやり」だと思うんです。そういうものを根底に持っていれば、たとえ時間がかかっても、きっと伝わるものがある。私はそう信じています。

時代の変化を読む力が必要

長年、八王子の産業やモノづくりに関わってこられて、どのような時代の変化を感じておられますか?

小林俊夫:美山工業団地の設立準備会に参加したり、50歳のときには商工会議所の議員にも選ばれて、地域の工業や経済の動きを長く見てきました。海外視察にも何度か行きましたし、本当にいろいろな現場を見てきたと思います。そんな中で強く感じているのは、時代の変化のスピードがとにかく速いということです。グローバル化の波で、コストの安い国へ生産がどんどん移っていく現実を目の当たりにしてきました。産業構造そのものが、大きく、そして確実に変わってきているんだなと感じます。もちろん、そうした変化を的確に読み取れれば、自分の立ち位置や今後の事業計画も立てやすくなるはずなんですが――実際には、それが本当に難しい。時代の流れを見極めることの難しさを、日々痛感しています。

製造業の魅力を少しでも伝えたい

今後の展望についてお聞かせください。

小林俊夫:まずは娘をしっかりサポートしながら、地域社会にとって模範となる企業を目指していきたいと思っています。社員一人ひとりが夢や希望を持って働けるような会社づくりを実現したいですね。夢や希望を持つためには、人と人との「つながり」が欠かせません。これまでは、なんとなく皆で歩調を合わせていけば成長できた時代もありましたが、この30年間はほとんど成長が止まってしまった。だからこそ、日本全体が同じ方向を向き、共に進んでいくことで、新しいつながりを生み出していけるのだと考えています。

小林真澄:私自身も、この年になって改めて「モノづくり」は日本経済にとって本当に重要な存在だと実感しています。ただ、いわゆる“3K”のイメージが強く、製造業の人気が低いのも現実です。そこを少しでも変えて、「製造業って面白い」「やりがいがある」と思ってもらえるようにしたいという気持ちがあります。また、製造業で女性の社長はまだ少なく、「女性ならではの目線で金型を作ってくれるのは珍しい」と言われることもあります。そうした強みを生かしながら、これまで父が築いてきた設備や仕組みを大切に受け継ぎ、地域社会に貢献できる会社づくりをしていきたい。いまはそのために、一歩一歩、コツコツと取り組んでいるところです。

これから挑戦してみたいことはありますか。

小林真澄:もちろんあります。父も自社製品を手がけましたが、私自身も「世の中の役に立つものをつくりたい」という思いがあります。せっかくこの設備を持っているのだから、それを生かして新しいモノづくりに挑戦していきたい。そんな気持ちでいます。

会社情報

会社名 株式会社デイテク
設立 1986年9月24日
本社所在地 東京都八王子市下恩方町308-22
ウェブサイト https://www.daytech.co.jp/
事業内容 樹脂設計/金型設計・製作/切削加工/射出成形/廃盤品の復元/特殊加工/製品開発