雪と氷の研究姿勢がものづくりにも反映 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
雪と氷の研究姿勢がものづくりにも反映

雪と氷の研究姿勢がものづくりにも反映

白山工業株式会社 代表取締役 吉田 稔

本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。
このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

白山工業株式会社の吉田 稔社長は二酸化炭素排出による地球温暖化という理論がはっきり分かっていなかった約半世紀前、雪と氷について学ぶ「雪氷(せっぴょう)学」という世界に足を踏み入れ、ヒマラヤや南極で約10年間にわたり研究活動に携わりました。白山工業は地震防災にかかわる幅広いソリューションを展開しており、氷の世界で培ったゆるぎない信念が、ものづくりに生かされています。

未知の場所への興味をきっかけにヒマラヤや南極で研究力

雪氷学という領域に関心を抱いたきっかけは何ですか

吉田:私が大学生だった50年程前、人間が足を踏み入れたことがない未知の場所はまだまだたくさんあり、その多くは雪や氷河の世界でした。こうした誰も見たことのない景色を見るのが好きで、東京工業大学時代には山岳部とワンダーフォーゲル部に所属し、登山ばかりしていました。こうした経験を機に、名古屋大学の大学院に進みヒマラヤの氷河でのフィールドワークに取り組みました。大学院単位取得後は国立極地研究所に勤務し、越冬隊員として南極の氷床研究に携わることになりました。

父親が立ち上げた町工場を引き継ぐ

約10年にわたり雪と氷の世界に身を置いていましたが、町工場の世界で再スタートを切ることになりました

吉田:父親の時代は町工場で2~3人の職人を抱えていました。請け負う形で生産していたのが、シート状となった金属のロールを巻き戻しながら切断し、再びロール状に巻き取るスリッターという機械です。その後父親が亡くなり母親が引き継いでいましたが、体調を崩したため、南極から戻ってきた翌年の1986年に株式会社化し、社長に就任しました。

阪神淡路大震災の教訓が会社の成長につながる

会社が成長したきっかけを教えてください

吉田:1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災です。当日は地上の通信網が途絶え、しばらくの間は現地の状況を把握できませんでした。その教訓を踏まえて、政府は、衛星回線によって地震データをリアルタイムで把握できる体制を整備することを決め、東大の地震研究所から当社に地震計開発の打診がありました。地震計などを手掛けた経験はありませんでしたが、当時はインターネット関連などの技術が急速に発達していた時期。微小デジタル処理技術など新たなイノベーションを理解して取り入れ、1995年の3月までに設計を終えました。地震研究所の要請に対応できたのは当社だけです。そうした取り組みがベースになり、現在では最先端のテクノロジーを活用し、複数の建物の被害状況を一元管理できるサービスをはじめとして、さまざまな地震防災ソリューションを提供しています。

臨機応変な形で開発に取り組む

雪氷学と地震観測システムの開発で共通点みたいなものはありましたか

吉田:氷河のフィールドワークは人類未踏の地に足を運んだ上で、何をするかについては時々刻々と変化する厳しい自然環境の中で対応し、即断即決します。新しい形の地震観測システム、極限環境ロボットのような、誰も手を付けていない製品への取り組み姿勢も同じです。社会情勢が時々刻々と変化する中で、その時に必要とされていることがあれば臨機応変な形で開発に取り組むようにしています。

実際に起きた地震を再現する「地震ザブトン」
極限環境ロボットに関する打合せ風景

極限環境下で作業するロボットを開発

2011年3月11日の東日本大震災も転機になったのではないでしょうか

吉田:東京電力は福島原発の事故を踏まえ、地震観測関連の技術の蓄積が重要な課題となりました。それがきっかけで当社と接点を持つようになり、資本提携に至りました。

また、東工大在学時にロボットの研究に携わっていた経験を活かして、同じ研究室の先輩である広瀬茂男先生の賛同を得て、極限環境ロボット研究所を設立しました。現在は廃炉などの狭小かつ極限環境で作業する廃炉ロボットの開発にも着手しています。

世界市場でもセンサーの最先端技術が活躍

ドイツの巨大ITベンダーであるSAPの日本法人とも資本提携しています

吉田:SAPはグローバルで、社会的意義のあるビジネスを推進しています。弊社との提携で、白山工業が持つIoT技術と、SAPのビッグデータ技術を組み合わせることができました。これによってSAPは世界各国の顧客に向けた防災対策を推進します。

知り合いをたどっていきやすいのが多摩地域の魅力

さまざまな企業と資本提携をされていますが、多摩地域の企業との連携も進んでいますか

吉田:東京都が主催するプロジェクトが仲介役となるような形で、異業種と接点を持つことができ、新しいビジネスも誕生しています。そのひとつが日野市にある不動産会社との連携による防災力に富んだ街づくりです。振動を計測・解析するIoT技術を応用したシステムを建物に装備し、居住者や利用者の安心性を高め資産価値向上につなげるのが目的です。その一環として、府中市および武蔵野市にある保育園では、地震が発生すると「建物は健全」といった情報を保護者に流し、不安感を和らげる取り組みを検討しています。

その他には、極限環境下でも作業可能なロボットの製造は八王子市に本社を置く製作所に依頼しています。これも地の利を生かした、開発と製造のモデル的な連携です。

このように、23区内とは違って、中小規模かつ古くから地元に根づいた多種多様な業種の会社があり、旧知の縁をたどっていきやすいのが多摩地域の良さです。

他に多摩地域の魅力はどういったところでしょう

吉田:都心に比べ、比較的容易に会社の近くに住めることです。私の通勤手段は主に自家用車を利用しますが、40分程度をかけて徒歩で通勤することもあります。また、以前私の趣味はジョギングでした。多摩地域の良いところは、多摩霊園や多摩川の土手など適したコースがたくさんある点です。1カ月で150㌔ほど走っていましたが、残念ながら60歳の時に体調を崩して走るのを止め、その後はゴルフを始めました。車で20分ほどの近場にゴルフ場があり、気軽にプレーできることが何よりの魅力ですね。

【プロフィール】

吉田 稔(よしだ・みのる)
代表取締役
1952年12月8日生まれ。東京都新宿区出身。

会社情報

会社名 白山工業株式会社
設立 1986年4月
本社所在地 〒183-0044 東京都府中市日鋼町1-1 Jタワー10階
ウェブサイト https://www.hakusan.co.jp/
事業内容 ・ICTと高精度計測技術を用いた地震及び火山の観測/解析機器、システムの開発・販売 ・建物の健全性評価システムなど防災分野におけるソリューション提供 ・精密スリッターライン及びロボティクス関連機器、システムの開発・販売 経歴: 1986年 現社長が両親から引き継ぎ白山工業株式会社設立 2017年 東京パワーテクノロジー社(東電100%子会社)と資本提携契約締結 2018年 SAPジャパン株式会社と資本提携契約締結 2020年 極限環境ロボット研究所(HERO研)設立(所長 広瀬茂男東工大名誉教授)

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