多摩から世界へ。独自の戦略で国内外のEC事業を伸ばす寝具・家具ブランド | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
多摩から世界へ。独自の戦略で国内外のEC事業を伸ばす寝具・家具ブランド

多摩から世界へ。独自の戦略で国内外のEC事業を伸ばす寝具・家具ブランド

株式会社エムール 代表取締役 高橋 幸司

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 立川市に本社を構える株式会社エムールは、店舗を持たず、EC事業に特化した寝具・家具ブランドです。畳のベッドや折りたたんで収納できる高性能マットレスなど、その製品は空間有用性を重視した日本文化の背景に基づいて作られています。国内にとどまらず、海外でも積極的に事業展開を進める高橋幸司代表取締役に、販売戦略について話を聞きました。

インタビューを受けていただいた高橋代表取締役

ビームスやハリウッドランチマーケットのような文化を持つ寝具・家具ブランドを作りたい

寝具インテリアメーカーとして起業された理由と事業方針を教えてください。

高橋:現在の主要な事業は睡眠の分野ですが、もともとは学生時代にビームスやハリウッドランチマーケットの文化的な雰囲気に憧れ、そういうブランドを作りたいという志を抱いていました。ブランドが生み出す商品や雰囲気が尊敬される会社を作りたい。その思いが自ら事業を創るきっかけになりました。

 会社を設立する際には、興味がありかつ未開拓の分野である寝具に着目しました。当時、寝具のブランドが少なかったため、このカテゴリーで競争が可能だと考えたからです。また、私は運動が好きでスポーツやアスリートに興味があったこともあり、睡眠の分野は将来的にアスリートと結びつく可能性を想像しました。これらの理由から、寝具の製品開発および販売を開始しました。今では寝具の商品の範囲はますます広がっています。寝る・座るに関する寝具や家具(マットレスや椅子など)は「人体系家具」「準人体系家具」と定義されます。これらのアイテムは単に睡眠だけでなく健康にも影響を与えるため、健康に焦点を当てて商品を拡大しています。

「空間有用性」の高い日本の文化に基づいた商品を展開

国内のEC事業で確かな存在感を発揮されていますが、いつからEC事業を始められたのでしょうか。また御社のブランドのコンセプトを教えてください。

高橋:2006年の設立当初からEC事業に取り組んでいます。スタートは国内ECで、大人向けの寝具に特化したお店でした。その後、子ども向け、ペット向け、シニア向けなどの商品を拡充し、これらが現在の国内ECの基盤となっています。
 私たちは、寝る・座る・しまうという人体系家具を中心にした商品構成を前提に、日本文化の背景に基づいた「空間有用性」を重視した商品を展開しています。例えば、全てのアイテムがたためるように工夫されています。マットレスは三つ折りにでき、ベッド自体もマットレスを取り外すと畳になります。日本の住宅はもともと狭かったため、場所を有効に使う知恵が備わっており、それにフォーカスしたコンセプトを強調しています。

エムール社が展開する三つ折りマットレス

日本の寝具メーカーで海外展開に成功している稀有な存在

海外でも積極的に製品を販売されています。

高橋:いずれは日本もEC市場の成長が鈍化するだろうと予測し、2014年からアメリカでEC事業を開始しました。日本には数多くの寝具・家具の販売業者が存在しますが、アメリカへの進出には苦戦している印象です。我々と同時期にアメリカ進出を果たした大手企業は昨年撤退しました。なぜなら、今の日本の主流である北欧やアメリカのテイストのインテリアを本場の国に輸出するのは難しいからです。ハンバーガーをアメリカに輸出することは難しいかもしれませんが、おにぎりなら十分競争できる。このような発想から私たちの場合は、日本文化に基づいた寝具・家具で勝負しています。こうした戦略と実行力、継続的な努力が実を結んで、現在ではアメリカ、カナダ、ドイツ、そして最近ではフランスに進出するなど、海外事業を成長させています。

ショールームではあえて売らずに体験に焦点を当てる

EC事業をメインでやられていますが、「売らない体験ショールーム」というユニークな取組もされていますね。

高橋:以前は店舗を「売り場」として運営していましたが、本来必要な場とは、お客様が実際に商品に触れ、素材の感触を確かめたり、サイズをチェックしたり、と体験するところであるべきです。売ることに主眼を置くと、この体験に集中することが難しくなってしまいます。そのため、私たちはショールームを完全予約制に切り替え、1度に1組のお客様だけがご利用できるようにしました。経済合理性はありませんが、売上を意識しないことで、お客様の気持ちや困りごとなど、私たちが見落としていた購買動機などを深く理解することができ、知見が蓄積されるようになりました。その結果、実際に来店して満足された方々のほとんどはご購入されるなど、経済効果も生まれています。

立川市の本社にある「売らない体験ショールーム」

大企業とも積極的に協業を進める

株式会社ソナミラや株式会社ユーキャンなど、他企業とも協業されています。

高橋:株式会社ソナミラさんはプルデンシャル生命保険株式会社さんの子会社で、大企業です。その方たちと組むことで多摩地域の活性化につながるのではないかという狙いがありました。もともと、彼らが保険を売るだけでなく、「食・運動・睡眠・お金の総合的な健康づくり」を目指す体験型店舗を作りたいというお話でした。私たちは、立川がいいですよとそっとアピールして、その効果も多少はあったのか2023年4月にソナミラさんの立川店がオープンしました。我々は睡眠分野におけるアドバイザーとして提携しています。

 株式会社ユーキャンさんは通信教育を手がける企業で、『睡眠セルフマネジメント講座』を共同開発しました。実は、過去に何度も他企業との協業にトライしてきましたが、決裁者とはビジョンを共有できても、実行者に業務が移った際にプロジェクトが頓挫してしまうケースが多々ありました。今回は要件が明確だったことと、先方の実行力が高かったため協業の難しさは感じませんでした。お互いに新しいサービスを作ることができ、事業としてもうまくいったので、有意義な協業となりました。今後も、他企業様との協業を積極的に進めていきたいと考えています。

“タイガーマスク”のように社会貢献活動にも尽力

多摩地域のプロサッカークラブである東京ヴェルディとその女子チームである日テレ・東京ヴェルディベレーザの支援や、青少年の支援をしたりするなど、社会貢献活動にも積極的に取り組まれている印象です。

高橋:東京ヴェルディさんとは2012年から約12年間、スポンサーとして関わっています。私たちは多摩地域に本社を構える企業なので、同じ多摩地域に昔からあるプロスポーツチームを応援しようと、自ら声をかけてスポンサーとなりました。アスリートにとって睡眠は重要です。弊社のマットレスを無償で提供し、多くの選手から好評を得ています。また、女子プロチームの日テレ・東京ヴェルディベレーザとその下部組織であるメニーナのユニフォームスポンサーも務めています。プロ選手だけではなく、これからプロを目指す若い世代の支援も行っています。

 他にも、多摩地域の小学生のために劇団四季の「こころの劇場」という公演に協賛しています。経済的な理由から芸術に触れる機会が限られることもあるかとは思います。そのような、子どもたちの体験格差をなくしたいという思いがずっとありました。感性が高い小さいうちに素晴らしい劇を見ることはきっと良い体験になると思います。また、立川の児童養護施設・至誠学園様には無償で寝具や家具を提供しています。子供の頃に好きだったタイガーマスクはファイトマネーで児童養護施設を支援していました。私も自分が大人になったら同じことをやりたいと思い続けていました。企業活動で挙げた利益は未来の子どもたちに還元したい。そういう思いから多摩地域での社会貢献活動に力を入れています。

多摩地域で起業する若者たちを応援したい

多摩地域で事業を営む企業として、今後どのような目標がありますか。

高橋:社会的価値と経済的価値を両立させる企業でありたいですね。これまで社会の矛盾を感じることもありましたが、課題を感じてもお金がなければ解決できないこともあります。だからこそ、社会的価値と経済的価値の両方を追い求めていきたいと思います。
 また、私は日野市生まれ日野市育ちで、今も国立市に住んでおり、多摩地域に対する思い入れは強いです。会社が今後も順調に成長し、多摩地域を代表するような企業になれば、若い世代に良い影響を与え、将来的には有望な若者が多摩で起業するかもしれません。その際には、彼らを積極的にサポートしたいと考えています。多摩の環境は都心部に比べて地価が安く、都心へのアクセスも容易なため、ビジネスをするには有利な土地だと思っています。激しい競争が続く都心では疲弊しがちです。多摩地域で着実に一歩ずつ階段を登りながら、自信をつけて会社を成長させることが成功の鍵だと思います。だから、若い方は多摩で起業することをお勧めします。多摩地域から世界に通じる企業を作っていきましょう。私も応援します。

会社情報

会社名 株式会社エムール
設立 2006年7月
本社所在地 東京都立川市曙町1-25-12 オリンピック曙町ビル9階
ウェブサイト https://emoor.co.jp/
事業内容 [寝室インテリアブランドの企画開発]空間有用性と快眠を両立した寝室提案/日本文化を背景とした寝具の企画開発/座る、くつろぐを追求した椅子の企画開発/国内、海外向けECサイト(15サイト)の運営/寝室寝具の専門Webメディア「日本の寝室と寝具」の運営 [睡眠教育サービスの企画開発]だれでも取り組める睡眠改善サービスの企画/Webアプリの開発運用/個人、法人団体へのサービス導入/睡眠改善に関する調査研究

インタビューをもっと見る

TL Genomics Inc.のインタビュー
TL Genomics Inc.

”尖った”技術と情熱で、新たな診断技術とヘルスケアサービスを創出する

森田紙業株式会社のインタビュー
森田紙業株式会社

古紙によるバイオエタノールで地球環境に貢献

インタビュー一覧ページへ
コミュニティに参加する