廃プラ由来カーボンナノチューブオイルで、燃費とCO2削減の一石二鳥へ
株式会社フューチャーアース研究所
代表取締役社長 松川 雄二
本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
廃プラスチックをカーボンナノチューブへ。フューチャーアース研究所は、捨てられる炭素資源を再構築し、潤滑油添加剤などへ展開することで、CO2の削減を目指しています。58歳で大学に入り研究を深めた松川雄二代表は、廃プラ由来カーボンナノチューブを武器に、地域の企業と組みながら実装の糸口を探ってきました。ここまでの道のりと現在地について話を伺いました。
東日本大震災がきっかけで新会社を設立
- 創業の経緯を教えてください。
松川:当社は2012年に設立しました。実はその前に、不動産業向けの業務用パッケージソフトを手がける会社を運営していて、そちらはいま娘が引き継いでいます。環境分野に踏み出す直接のきっかけは、東日本大震災でした。あの出来事を受けて、「このままではいけない」「自分たちにもできることがあるはずだ」と家族とも話して。最初から完成した事業計画があったというより、まずは環境問題に向けて動こう、という思いが出発点です。
58歳で東京理科大学へ。研究室でカーボンナノチューブに出会う
- 立ち上げ当初はどんな取り組みを?
松川:最初は省エネに関係するところから、遮熱塗料に取り組みました。塗料にセラミックを混ぜ、屋根や外壁に塗って太陽光を反射し、室内温度の上昇を抑えるものです。ただ、いかんせん見栄えが悪い。そこで当時、光る遮熱塗料を開発できたら、見栄えの課題も超えられるのではと考え、一念発起して58歳で東京理科大学に入学しました。そして4年生で研究室に入ったとき、カーボンナノチューブ(以下、CNT)に出会ったんです。研究室では生物物理の分野でCNTを材料として扱っていましたが、触れていくうちに材料そのものが面白くなっていって。そこから修士、博士へと進み、CNTの研究を深めました。いまの事業の方向性は、そこで固まった感覚があります。

炭素を再構築してCNTを作り出す
- 廃プラからCNTをつくる仕組みを、わかりやすく教えてください。
松川:CNTは、グラフェンシート(炭素原子のハニカム構造)が、筒状に丸まった材料です。作るには炭素源が必要で、その供給源として廃プラスチックに着目しました。たとえば一般的なポリエチレンは、炭素と水素が結びついた分子(モノマー)が多数つながってできています。ここに熱をかけていったんガス化し、分子をばらす。すると炭素と水素が取り出せるので、炭素を集め、触媒の働きで炭素原子を連結させていくと、筒状のCNTが生成されます。イメージとしては、一度分解して、もう一度組み立て直す。燃やして終わりではなく、炭素資源として価値を戻していく考え方です。
用途は無限。黒い粉を、現場で使える製品へ
- CNTは一般にどんな分野で使われていますか。
松川:CNTは軽くて強く、電気も通す。見た目は真っ黒の粉ですが、用途は本当に多岐にわたります。代表例はEVのリチウムイオン電池で、電気をよく通す特性を生かして充電時間の短縮や放電時間の延伸につなげる。樹脂に混ぜて強度を上げたり、導電性を持たせたり、スポーツ用品や車体素材などの応用もあります。
当初はCNTの粉をそのまま販売していましたが、お客さまから「どう使えばいいのか分からない」と聞かれることが多くありました。また、品質自体は評価される一方で、事業化の壁になったのが量産性です。大手電子部品メーカーと共同で進めた際も「年間1トン」といった要望に対し、当時の設備では1日100グラム程度が限界。供給量とコストの両面で折り合わず、粉体単体で勝負する難しさを痛感しました。
だからこそ、自分たちのキャパシティの範囲で、確実に価値を届けられるプロダクトにしようと考えたんです。そこで目をつけたのが「油」でした。CNTの粉を潤滑油に少量混ぜるだけで、摺動性が上がり、油がさらっとして摩擦抵抗が減る。潤滑性の改善という形で効果を実感しやすい上に、少量で性能が出るので、当社の製造規模でも十分に対応できます。
まずは釣り用のリールオイルと自転車のチェーンオイルから取り組みました。狙いは一つ、CNTを混ぜることで本当に摺動性が上がるのかを確かめること。約2年かけて検証を重ね、手応えを得たうえで、次のステップとして本丸のエンジンオイルへ踏み出しました。燃費が改善すればCO2削減につながり、しかも原料は廃プラスチック。環境課題に向き合ってきた私たちにとって、まさに挑むべき領域でした。


原料調達から実装までを多摩地域で完結
- 同じ東村山市の千葉企業株式会社と連携した取り組みを行っていると伺いました。
松川:エンジンオイルの領域に挑戦するにあたり、まずは多摩地域の産廃業者さんや運送会社さんにDMを出しました。まだ製品化前、マーケティングの段階です。「こういうことを始めたい。一緒に実証できないか」と声をかけた中で、いち早く手を挙げてくださったのが千葉企業さんでした。千葉企業さんもCO2削減に前向きで、いずれ求められるなら、先にできることをやっておきたいという考え方だった。私たちの方向性とも一致して、まずは開発から一緒に進めることにしました。
千葉企業さんが企業から回収した廃プラを当社が購入し、それを原料にCNTを生成。添加剤として製品化し、今度は千葉企業さんのごみ収集車で使っていただく。出す側と使う側が同じ地域の中で循環するモデルです。原料は主にポリエチレンで、圧縮して固めた状態で受け取っています。もちろん、すぐに最適解が出たわけではありません。濃度や添加量は、何度も試行錯誤しながら、このくらいで効果が出るという着地点を探ってきました。

ごみ収集車で実証。燃費15%改善、CO2も15%削減へ
- 実証はどのように進んでいますか。
松川:千葉企業さんのごみ収集車に、当社のエンジンオイル添加剤を入れてもらい、約1年かけて検証しました。投入開始は2024年12月末。1カ月、2カ月、3カ月と良いデータが継続して出たことを受け、協業の契約も交わして、車両への影響を確認しながら台数を増やしていきました。半年時点のデータで燃費が約15%改善し、CO2排出も約15%削減という結果が得られています。次に確認したのが車両への影響です。台数を段階的に増やし、現在は7台で継続運用。不具合が出たという報告は現時点ではありません。こうした検証を経て、2025年8月に正式発売へ踏み切っています。
群馬県みどり市で自治体初の実証へ。市バス・公用車でテストを開始
- 自治体との取り組みも進んでいると伺いました。
松川:CO2削減の文脈で自治体に広げていこうと考えて、官民ミートなどの場で提案を重ねてきました。そうした流れの中で、群馬県みどり市さんにご協力いただき、実証テストを始めています。自治体での実証は、これが初めてです。開始は2025年の11月末ごろで、まずは3カ月ほどやってみましょうということで進行中。トラックではなく、市バスや公用車(ガソリン車)に入れていただいて、今まさにテストしている最中です。まだ結果が出そろっている段階ではありませんが、みどり市さんが動き出したことで、ほかの自治体からの問い合わせも増えてきています。

石垣島で「海ごみ×CNT」の実証へ。船の燃費改善も視野に準備を加速
- 石垣島でも取り組みが具体化していると伺いました。
松川:石垣島は、自治体への提案とは少し違うルートで話が動き始めました。現地の友人から連絡があり、2025年に実際に島へ足を運んで市役所など関係者を回ったところ、前向きな反応をいただけたんです。課題として最初に挙がったのは、工場を置く場所がないという点で、農地が多く新設が簡単ではない事情もありました。
そこで、島内で釣り糸や網などの海ごみを活用して製品化している㈱ソルトラボ石垣島の存在を知り、まずは原料面の連携から検討を開始。海ごみ由来のプラスチックからCNTをつくれないかと提案したところ、協業に向けた議論が進みました。加えて石垣島では船の燃料消費が大きいことに着目し、漁業協同組合とも対話を重ね、実証に協力いただける漁船を探す動きも立ち上がっています。
現在は、海ごみの提供や実証場所の候補を模索しながら、実際に現地から海ごみが届き、それをCNTへ変換して摺動性のテストも実施。良好な結果が得られたため、現地へフィードバックしながら次段階へ進めています。今後は、実証プラントの具体化に向けた協議を進める予定です。一方で、行政予算の制約もあるため、初期費用を担える民間パートナーの探索が次の焦点になっています。

多摩地域での連携を次の実装へ。パートナーと増やす循環の当たり前
- 最後に今後の展望を教えてください。
松川:CO2削減は、私自身の強い願いでもあります。少しずつでもいいから、複数のパートナーと実現していきたい。ただ、環境対応が現場の負担になってしまうと広がりにくい。車を使う仕事の延長で燃費が改善し、結果としてCO2も下がる、車に乗っていれば下がるくらいの形が理想です。CO2削減は個社だけで完結できるテーマではなく、地域全体で取り組む必要があります。そのため、制度や仕組みづくりを担う行政の皆様とも連携しながら進めていきたいと考えています。
あわせて企業向けには、回収した廃プラを原料にし、その企業の車両や設備で製品を使ってもらうクローズドループの構築を、運用まで含めて支援していきたい。廃プラの出し手、回収、分別、製造、使用先までがつながって初めて循環が回るからです。一方で、化学系の設備を置ける場所は限られ、拠点探しは簡単ではありません。実際、現在の工場は東村山市の倉庫を改装して運用しています。場所探しではアクセスや賃料の条件も大きく、先に工場として使える物件が見つかったことが移転の決め手になりました。化学工業というだけで敬遠され、廃棄のイメージから貸してもらえる物件が限られるという現実もあります。
だからこそ、千葉企業さんのように地域で同じ方向を向けるパートナーの存在が大きいと感じています。多摩イノベーションエコシステム促進事業には、こうした連携の芽をさらに増やし、実証の次へ進むきっかけを生み出していくことを期待しています。最初の一社が動けば、そこから連鎖的に広がっていく。多摩から循環の当たり前を増やしていきたいですね。実証で得たデータを次の提案の材料にしながら、地域内連携を少しずつ増やしていきたいと考えています。
会社情報
| 会社名 | 株式会社フューチャーアース研究所 |
|---|---|
| 設立 | 2012年8月 |
| 本社所在地 | 東京都東村山市本町2-6-18 |
| ウェブサイト | https://www.future-earth.jp/ |
| 事業内容 | 環境関連商材の販売・施工 |